小説

 購入したものの積んだままになっていた全五巻。既に絶版でしたので古本で取り寄せたところ一巻途中で挫折したらしく栞代わりのチラシが挟まっていて2から5巻は一度も開いた形跡が無く紙が貼り付いたままで新品そのものでした。もちろん、全て初版で重版された形跡もありません。Kindle版で復活してもいいかも?しれませんが相当に読む人間を選びます。というか、主人公の設定がマニアックすぎて感情移入しづらすぎるのが最大の障壁(?)かと思いました。ぶっちゃけ、"新入社員"工兵君の方が100倍以上マシです、カイゼンされています。
 さらに、仮名ルビ(<夏>エスターテ)も冗長というかなぜイタリア語を使っているのかつかめず(まさか宇宙船の外形から?)、普通に日本語で春夏秋冬だけでも良さそうな気がしました。作中で茉莉花評議長(だけ?)は全くブレないし挿絵の雰囲気と合っているのが安心要素かも。ちなみに、茉莉花はフィリピン共和国の国花ですがイタリア語のルビと同じぐらい全く本作品とは関係ありません。
 なんだか公式サイト『なれる!SE』(http://nareru-se.dengeki.com/)までできているシリーズの著者が書いていて登場キャラの容姿についてのくどい(やたら細かい)説明やITがらみの妙に専門的な仕掛けは同様です。ただし、暗号通信の復調&復号方法は手紙もラジオもご都合主義過ぎます(技術的な背景を知らなければ全く置いてけぼりで読み飛ばされていると思われます)。
 ついでに、作中で唯一出てくる座標35.297238, 136.150303を地理院地図で見ると思ったよりも沖合にあります。

 五巻のラストバトル(ほぼ人間対人間)はヘタな仮想戦記ものよりよほど上手く書けていると思います。が、乗り物や武器の描写よりは人物や人間関係の方がより上手さが出ているため銀行ものや政治バトルの方がいいかも?無茶なSFチック設定が逆効果になっていると全巻読んだ後に感じました。ヒロインの活躍も後半はより強力なサブキャラクターに隠れてしまっている感が少々残念でもあります。
 ハチャメチャでもオリジナリティがあり悪役のキャラが立っているところは大きく評価できると思います。実は悪役の主張である元の状態をあるべき姿と考え不確定なリスクを排除する保守的思想のスジが通っている辺りも良くできています。主人公のロジックの方が定性的で破綻しています。
一巻122ページ4行目の誤植
 あと、受賞作品だか何だかよく分かりませんが校正はライトで”彦根辺還運動”なる誤植がありました。上の写真ポストイットの部分。返還が正しいのではないでしょうか。