小説

 どこかのサイトを見ていて気になったため文庫版を上下巻まとめて購入して一気読みしました。土日更新できなかったのはこのためです。読んだ後に下巻カバーの背表紙の概要(?)を読んだのですが「巨大企業相手に闘う男の姿を描いた」という通り一遍の表現はこの小説の重要な点が欠けています。闘っていたのはもちろん主人公である中小企業の社長さんと従業員達であり、最大の被害者である事故の遺族の方々なのですけれど、それだけでなく問題の巨大企業内でも銀行内でも法廷でも警察署内でも闘う人たちが描かれています。闘うメンバーの共通点は善悪ではなく己の利益であったり、スジを通すためです。単に悪の大企業に立ち向かう正義漢というだけではこの物語のおもしろさは半減です。私は、悪役メーカーの役員がひっくり返る(主人公側に転ぶ)かもと勝手な予想もしましたがそんなことは無く徹底的に突っ走ってしまいました。お決まりとなっている最後の最後にウルトラCをぶちかますのは意外な人物です。なぜかこの人はドラマ版のキャストには入っていません。
 小説のタイトルを見ただけで分かるとおり、ほぼ完全に三菱リコール隠し – Wikipedia事件をなぞっています。ただし、あくまでも闘う人たちの熱い物語であり、技術的な面(ハブの強度がどうやって確保されるのか)や根本原因(D型の設計)には触れていません。あと微妙に母子死傷事故の現場をずらしてあったり、運送会社側の問題はなかった等、細かい配慮がされています。平行して主人公や従業員家族の問題も出てきますが主人公を公私ともに逆境に追い込んでおき、最後に一気に解決するパターンが見え透いていて微妙です。
 最後に、改めて実際の事件の内容を読んでみるといかに深刻な問題か、メーカーとしての責務とは何かを考えさせられました。